この日はゼミの発表があった。
……結果は、大失敗。甘さを追及されまくった。
就活でものすごく忙しかったとか、体調がよくなかったとか、
言い訳を挙げればキリがないけれど、
要するに勉強不足。
しょぼんってしながらカレからの電話を待った。
カレになぐさめてもらって、
明日からまた元気出してがんばろう!って思って。
カレは仕事上がりにいつも電話をくれる。
ふだんより早めに電話がかかってきて、
嬉々としてわたしは電話に出た。
一緒に夕飯を食べて、誘われるままにカレの家に。
カレはまずパソコンを開いてメールチェックをして、その返信を作成していた。
わたしはカレにくっついたままそれが終わるのを待ってたの。
でもカレはそのままHPに載せる日記みたいなものを書き始めた。
(カレは人気HPの管理人で、更新が日課なの)
なぐさめてほしーなーなんていうのはわたしの都合だし、
カレは長時間の仕事を終えてやっと趣味に没頭できる時間になったんだから、
もうちょっと待とうと思ったの。
(30分はかかるかなぁ)
と見て、わたしは持ってきた文庫本を開いた。
これはしばらく付き合ってきて覚えた知恵なの。
カレはHPに夢中になると、話しかけても反応がない。9割ない。
それがわかっていても話しかけて反応がないと悲しくなる。
悲しいのが積み重なると、こないだみたくなるから、
わたしも一人の世界に入れるようにと本を持参するようにしたの。
しばらくしてカレがこっちを向いてキスしてくれた。
たぶんこないだ放っておいてわたしが拗ねたから、
気を遣ってくれたんだろう。
これでしばらく待てるって思った。
30分経過。
早い日ならもう終わってる。
でもカレは乗ってきちゃったらしく、ディスプレイに夢中だ。
わたしも本に視線を戻す。
1時間経過。
文庫本を読み終えてしまう。
カレがキーボードを叩く音は止まらない。
ひまだなぁと思ったらゼミでの失敗が思い出されてきた。
考えれば考えるほどヘコみそうだったから、
わたしはもう寝る支度を始めた。1時近くなっていたし。
メイクを落として歯磨きをして。
そしたらなんだか、なんのためにカレの家に来たんだろ、って思えてきた。
本を読んでメイク落として歯磨きして寝る。
自分の家でもできたことだ。
カレの家は実はそんなに近くない。
カレの家に来るまでには1時間弱かかる。
カレといる時間を無駄だなんて思わないけど、
この時間があれば他に何ができただろう。
電車賃も往復で千円くらい。
カレといられるならって、度外視してきたけれど、
就活でバイトを大幅に減らしているわたしには何度も重なるとかなりの負担だ。
そんな負担があっても、カレと幸せな充実した時間が過ごせるなら全然構わない。
でも……
「ゆい」
カレが一段落ついたらしく声をかけてきた。
「・・・・・・」
「大作ができたよ☆ 読みたい?」
「・・・・・・」
わたしは黙ったままカレに背を向けてふて寝した。
「え~なんだよ~読みたくないの?」
「・・・・・・」
背を向け続けていたら、またカタカタとキーボードの音が聞こえてきた。
・・・・信じられない・・・・・。
もうやだ、帰りたい・・・・
そう思ってもすでに電車は走っていない時間だ。
そのまま眠りにつくことさえできず、キーボードの音を聞いているしかなかった。
またしばらくしてカレはわたしのほうを見た。
「ゆーいー。こっち向いて」
カレがわたしの腕を引っ張った。
わたしはそれに全力で抗った。
「なんで怒ってるんだよ~?」
「・・・・・・」
怒ってるわけじゃなかった。
なんて表現していいかわからないけど。
『もういい。』
そんな感じ。
カレはようやくパソコンを閉じた。
わたしは涙が止まらなくなっていた。
泣き止まなきゃ、と思った。
わたしが泣き止むまでカレは眠れない。
カレは明日も朝からお仕事なのに・・・・
泣き止まなきゃ、泣き止まなきゃ、
と思えば思うほど涙はあふれ出てきた。
わたしがここにいたらカレは眠れない。
そう判断してわたしはキッチンに出た。
キッチンで思う存分泣いて、泣き止んでから戻ればいい。
でもカレはすぐにキッチンに来て、
号泣してるわたしを一瞥してから、何を言うでもなく上着に腕を通し始めた。
わたしは涙声にならないように気をつけながら、
「どこか行くの?」
と聞いた。
カレが何も答えなかったからもう一度聞いたけれど、
カレはそのまま家から出て行ってしまった。
ずっと帰ってこなかったらどうしよう・・・・
わたしは探しに行くことさえできずに泣いていた。
カレは意外とすぐに帰ってきた。
でもベッドには戻ってこず、離れたまましゃがんでいた。
そのままじゃ風邪をひくと思って迎えに行ったら、
カレはそこで横になってしまった。
「ここじゃ風邪ひくよ?」
「・・・・・・」
「寝るならベッドで寝なよ」
「・・・・・・」
「・・・・一緒に寝たくないならわたしがこっちで寝るから・・・・」
それでも動こうとしないカレの腕をひっぱったけれど、
わたしの力じゃびくともしない。
逆に掛け布団を持ってきてやった。
当然だけど今度はわたしが寒くなる。
ダウンを着てコンビニで立ち読みでもしながら始発を待とうと思った。
キッチンまで出たところでカレがわたしを引き止めた。
カレは部屋の中にわたしを引き入れてダウンを脱がし、ベッドに寝かせた。
カレもベッドに入ってきた。そして足をからめてきた。
カレの足から伝わるぬくもりに
あぁ、わたしはこれを待ってたんだ
って思った。
ぶわぁーって涙が出てきて、ティッシュをとろうと体を起こしたら、
ぎゅうううって抱きしめられた。
『もう放さない』っていうくらいに。
そのわたしを抱きしめる腕がうれしくて、また涙が止まらない。
わたしも抱きしめ返して、「ごめんね」と言った。
タカシを待っていることができなくて、ごめん。
こんな遅くまで起こしちゃっててごめん。
大人になれなくて・・・・ごめん。
次の日の朝、目を覚ますと、前夜メイクを落とすときに外した指輪をカレがもっていた。
わたしはそんなつもりなかったけど、
カレはテーブルにある指輪を見てどきっとしたのかもしれないね。
わたしは右手を差し出した。
指輪をくれたクリスマスイヴにそうしてくれたように、
カレは右手の薬指に指輪をはめてくれた。
◆今回の反省点。
・どうせガマンできないんだから、
カレに慰めて欲しいときは先に言って慰めてもらっとく。
・すねてるときは黙らないで「すねてる」って言っとく。
・文庫本は2,3冊もってくる。
ほんとは「心に余裕のない時はカレのうちに来ない」ってしたいけど、
それは就活が終わるまでむりそーだもんねぇ。。。
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